「CDとか動画で音楽を聴くのもいいけど、やっぱ生音は全然違うよね!」なんてよく言われますよね。
私もそんな話の時に「ですよねー」なんて相槌をうってしまいますが、実はあまりライブやコンサートにしょっちゅう行くタイプの人間ではなかったりします。
あ、いや別にアンチなわけじゃないですよ。
行ったら行ったで楽しいし、得るものもあるのですが、いかんせん人混みが苦手なのと職業柄色々考えちゃうのとで少し疲れるんですよね。
そんなこんなで、本格的なコンサートやライブからは足が遠のいていたのですが、昨日めっちゃ久しぶりにコンサートに行ってきました。
水戸在住のギタリスト、中村俊三先生のギター・リサイタルです。
コンサートを聴きに行くのも久しぶりですが、中村先生のコンサート自体もなかなかタイミングが合わずしばらくぶりの参戦となりました。
中村先生のリサイタルは毎回しっかりとしたコンセプトがあり、それに合わせた選曲や自編のアップデートも欠かさずに行われているので、ホント頭が下がります。
コンサートの各曲レビュー的な
と、その前に
今回のコンサートは19世紀のギター作品というテーマでプログラムを組んだそうです。
クラシックギターの最重要ギタリスト/作曲家であるソルとタレガが登場する時代ですので、クラシックギター最初のピークといって良いと思います。
曲順も時代順を意識した並びで、歴史の流れをよく感じられるプログラムになっていました。
そして、今回の使用ギターはアメリカの製作家ポール・ジェイコブソン。
ジェイコブソン?!
トレードマークであるハウザーはちょっとご機嫌斜めだったようで、今回はジェイコブソンの出番となったみたいです。
ジェイコブソンはたしかジャズの渡辺香津美さんなんかも使っていましたよね。
伝統的なクラシック・サウンドというよりは、安定した力強いサウンドで幅広いジャンルをカバーできるギターです。
プログラム的には19世紀ギターやトーレス・モデルなんかで通しても良いような感じですが、時代も国もかすってすらいないジェイコブソンで弾き倒すという時空を超えたコンサートになりました。
オープニングはまだバロック的な色合いを残す時代のスカルラッティのソナタを2曲、自身による編曲で。
編曲は声部を意識した印象。
こういう鍵盤ものの編曲って難しいですよね。
軽い気持ちで演奏したい曲なのに(鍵盤だったらそう弾けるのに)声部を繋ぐ関係上妙にキツくなる箇所とか出てきちゃったりして。
古典の練習に欠かせない重要な位置付けながら、どこか軽薄なジュリアーニを意識したのかしないのか、軽めのアプローチで変奏曲睡魔に襲われることなく心地よく楽しめました。
MCではベートーベンの交響曲の初演にジュリアーニが(チェロだったか?)で参加した逸話も話されていました。
当時は人気のある演奏家を初演時に参加させて集客するみたいな作戦が流行っていた(?)みたいですね。
「ジュリアーニ’は’ベートーベンを友達だと思っていたみたい」という、さらっとブラックなトークを挟まれるのも中村先生の魅力の一つ。
ど定番のクラシックギター・レパートリーだけに、長年弾きこんできているのが感じられる演奏でした。
中村先生は巨匠の解釈で師匠枠に移行してもおかしくない年齢ですが、まったく守りに入る様子のないエネルギッシュな演奏で会場も盛り上がりました。
新しい曲、新しい解釈、新しい編曲、とチャレンジ精神を忘れないのがすごいですね。
ヴィルトゥオーソ的な難曲で前半終了〜
レゴンディは少ないながら綺麗な曲がそろっていますが、私はもう本格的に取り組む体力がありません・・・
ボリュームたっぷりのプログラム解説も健在。待ち時間とかに読めるのでけっこう好き。
中村先生のブログでさらに細かい解説を読むことができますよ。
後半はじめはエレジーでしっとりと開幕。
ロマン派的な曲調になるにつれアプローチも曲線的に。
椿姫は少し落ち着いたテンポで、いかにもギターギターしたアプローチというよりはオペラの雰囲気が感じられて非常に聴きやすかったです。
グラン・ワルツは演奏前のMCでシュトラウスの影響があるのではないか、というお話をされていて、言われてみればたしかにそうかも気付き、改めて弾いてみようかなと思いました。
とはいえ、演奏はコテコテのウィンナ・ワルツ・アプローチというわけではなく、ほんのりとエッセンスを取り入れた程度にとどめていました。
小太鼓や大太鼓を差し置いて妙に猫の再現度が高いグラン・ホタ。
華やかなグラン・ホタはジェイコブソンによく合っていました。
ラストはアルベニス2曲を自編で。
演奏家自身による編曲は、解釈がより反映されるので面白いですよね。
MCでタレガとアルベニスの親交について話をされていましたが、さらっと「こちらは本当に友達だった」と差し込まれていたのを私は聞き逃しませんでした。
醸し出されるジュリアーニの「俺◯◯先輩知ってんだぜ」感。
アンコールはアルハンブラとアコギの南澤大介氏による編曲のルパンでした。
音楽とギターへの真摯な姿勢と情熱、そしてその人柄を感じられる、ボリュームたっぷりの充実したコンサートでした!